facebook

x

グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2023年9月28日

第74回「相手に合わせたロジックを」福田勝さん

さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは化学品の製造販売を手掛ける外資系企業のトップとして20年以上のキャリアを持つ経営コンサルタントの福田勝さんです。

fukudasan_prof.png

木暮 大学時代に留学されたそうですね。

 

福田 高校生のときに兄から「職業選択の幅が広がる」と聞かされて工学部を選びました。研究室に残ったり、企業の開発部門に就職を決めた同級生とは違って、自分は将来のイメージが浮かんでこない。英語が好きで海外の暮らしや文化に興味があったこともあり、1年間、米国に留学したんです。自分を見つめ直したかったのと英語をブラッシュアップしたかった。いちど海外を見てみたいという気持ちもありました。

 

木暮 20代初めの多感な時期。自分の意思で行かれた自由の国、米国はどうでしたか。

 

福田 大型スポーツカーを借りたり、列車に乗ったりした時は嬉しかったですね。留学中は学生寮に入り、世界中の若者と交流できました。彼らは本当にしっかりといろんなことを考えていました。自分の意見や将来のあるべき姿など誰もが雄弁に語るんです。自分を含め、日本の大学生と比べると、大人と子どもぐらいの差があった印象です。米国では優秀な学生ほど政治家になろうとしていたのも印象的ですね。

 

木暮 いまや米国では、ご自身のお嬢さまが家庭を持たれていると聞きました。

 

福田 娘が生活しているのは、日本はおろかアジアのこともあまり知らないような人が多い地域で、日本とは全く違う文化や価値観を持っています。そこで骨をうずめると決めたからには、違和感や不満を訴えても意味がないですよね。先日も、周りの温かいサポートや理解を得ながら、異国の地でいろんなものを乗り越えた娘に「I’m very much proud of you, I love you.(君のことを本当に誇らしく思うよ、大好きだよ)」と花嫁の父親としてスピーチする機会がありました。いま思い出しても、込み上げてきますね。

 

木暮 そういう経験は、なかなかできないですよね。素晴らしいお話です。

 

福田 日本人の多くは、全部を言わなくても通じ合えてしまう。同じような教育を受け、同じようなテレビ番組を見てきた。共通した価値観を共有してきたことがあるのかもしれません。他人と違う発言をしたりすると、周りから「あいつ変わってんな」「けしからんな」「失礼やな」となる。米国でもビジネスの世界では空気を読む場面はあると感じます。ただし、日本ほど強くない。違う意見にも平気でぶつかっていきます。それは発言した人の性格や人間性を否定するわけではない。

 

木暮 日本人だけの会議では、自分の意見への反論が出ると、その人に対して感情的になってしまう場面があります。海外で驚いたのは、会議で激しい応酬を繰り広げていた同士がひとたび会議室を出ると「これから飲みに行こうよ」とあっけらかんとしていることでした。双方とも、さばさばしている。

 

福田 あくまで意見に対して自分の意見をぶつけるだけ。人物や人格に対して言ってるわけじゃない。相手の人間性を嫌いになってしまうことはないんですよね。

 

お客さんをハッピーに

木暮 日本の商社や外資系企業といった、外国のビジネスパーソンと折衝する環境で長く活躍されてきました。販売方法や顧客に対する考え方などで内外の差を感じたようですね。

 

福田 化学商社に勤めていた頃は、扱っている商材のほぼ9割は輸入品。当時は日本法人を構える海外メーカーはほとんどありませんでしたから、日本向けの技術的な要望からマーケティングまで商社がさまざまな役目を果たしていました。そこで出てくる日本のお客さまの要求と、欧米メーカーの主張とのギャップがすごく大きかった。日本では品質をはじめ性能、納期、用途に至るまで要求が多い。こんなことがありました。輸入される化学品はドラム缶に入っているのですが、それがちょっとへこんでいても気になる。天板の一部がさびていたという指摘も受けたことがあります。そうなると日本では全部、返品なんですよ。欧米側はこの反応が理解できない。「肝心の中身は問題ないのに、なぜ」となる。両者の間で板挟みになるのが商社や外資系企業の日本法人なんです。

 福田さん斜め_400.jpeg 

外資系企業での経験を語る福田さん

 

木暮 お客さまの要望をかなえたい日本側と合理性を追求する海外の主張を聞き入れるバランスが難しそうですね。

 

福田 そうなんです。それは社員の採用に関わる立場になってからも意識するようになりました。

 

木暮 どういうことですか。

 

福田 外資系企業で20年ほど代表をやらせていただいたんですが、採用活動で気を付けたのは候補者が、お客さまを見て仕事をする人かどうか。会社に入った後は海外本社をハッピーにするのが自分の仕事だと「勘違い」する人もいるんです。

 

木暮 それは良くないですね。

 

福田 現実的には、本社の評価が最終的な人事に影響することはあります。本社を向いて仕事をしている人間ほど出世していくケースも少なくない。ただ、自分はそういう会社にだけはしたくなかったし、本社の評価を気にしそうな人間は採用してきませんでした。

 

木暮 面接段階で見極めるのは難しそうですね。秘訣はあるのですか。

 

福田 具体的なことを質問します。抽象的な考えだけなら何とでも言えますから。例えば「どんなときにお客さんと難しい交渉をしましたか」とか「今まで困ったことやトラブルは無かったですか」とか。誰にでもいくつか経験はあるわけですが、そういうときにどうしたか、なぜそうしたか、を聞いてみると結局、全部分かります。

 

木暮 具体的な話をしないと真実味も伝わらないし、本人の熱も入らないでしょうね。

 

福田 本社をどう説得するか、というのが最も難しいわけです。特に現地法人の社長という立場になると、それが一番大きな仕事になります。日本のお客さまに喜んでもらうためには、本社の十分な支援が必要です。国内で生産していない場合は特に、本社がサポートしないと日本のお客さまをハッピーにできないんです。一方で利益を求めたい本社の「会社の都合」も少なからずあります。お客さまの求めるものとのギャップは常にある。

 

木暮 その通りですね。そこが難しい。

 

福田 日本のお客さまの要望は「使い勝手がすごく悪い」など、やや抽象的な表現をするのも特徴的です。日本だと「お客さまの言うことだから、やるしかない」と受け入れるのですが、欧米の人は非常にロジックを大事にする。「なぜ、そうしないといけないのか」「お客さまにどのようなメリットが生まれ、最終的に当社にどう好影響が出るのか」と聞いてくる。それらを全て論理的に説明しないといけない。英語で「お客さまが言うことだから仕方ない」と言ったとしても「何を言っているの?」で会話が終わってしまう。欧米人に分かるように、ロジックを組み立てて説明するのが非常に大事です。

 

木暮 おっしゃる通りですね。当社のメンバーにも話すのですが、ロジカルに考えて説明できるのかが、すごく重要。僕らがプロジェクトを進めていると、現場の人から「それは困る」「いま忙しくて対応できない」「そもそも、このプロジェクトには反対なんだ」など、いろいろ言われる場面があります。その反論として「現状はこれで、このように改善しないといけない、よって今回はこれをお願いしてるんです」という説明が相手にスッと入らないと、すぐに動いてもらえません。納得するまで全く動かない人もいます。そういう人にはロジックが大切ですし、ロジックがプロジェクトのメンバー間で共通言語になっていく感覚もあります。

 

福田 とある部署の責任者や担当者にいくらロジックで話してもイエスと言わない、という相談を受けたことがあり、その時は「なぜ反対されたのかを理解しないといけないよ」と諭しました。上司が納得してないからなのか、幹部層が反対しているからなのか。組織では立場がそれぞれ違いますから、担当者には通るロジックでも、別の政治的な要素が絡んだりするシニアマネジメントには通らなかったりする。そういったところも考えた上で、さらにロジックを作らないといけない。

 

木暮 同感です。それぞれが納得するキーワードが必要。組織で上の立場になると、いろんなことを見ないといけなくなりますから。23年1月に代表を退任されました。今後の目標は何でしょうか。

 

福田 報酬をいただきながら会社で働くことは考えていません。利益を追求したり時間を拘束されたりする世界から離れたいと思っています。趣味やスポーツを続ける一方、チャレンジする若い方に私の経験が役立つことをしようと考えています。それから、英語の通訳兼観光ガイドを始めることになり、観光局にも登録しました。今までたくさんの外国の方にお世話になりました。訪日される方に日本の文化、観光スポット、食事などを紹介します。これまで以上に毎日をエンジョイしたいですね。(おわり)

 

fukudasan_hitokoto.png

福田勝さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。