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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2020年10月15日

第17回「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん

今回のゲストは、米国で大学講師などを務めたのち、ダイバーシティ(多様性)の視点からの企業研修や講演活動を行う竹田綾夏さんです。 

 

木暮 提唱されている「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)」に親しみを感じます。

 

 竹田 台湾出身の祖父と暮らした経験が大きいです。小さい頃から外国人や異文化に親しみながら育ったため、海外や異文化に興味がありました。大学卒業後に米オクラホマ州へ留学して社会学や英語教育を学びました。現地の大学で講師として英語と異文化理解に関する講義をしたのがキャリアの始まりです。

 

木暮 外国でのプロジェクトもメンバーの協力が不可欠。海外の日本人に対する印象は?

 

竹田 留学1年目から異文化の壁にぶつかって失敗しました。住んでいた学生寮で見かけた女性にインドの人だと思って話しかけたところ、「私はイギリス人!」と不機嫌にさせてしまったことがあります。外見だけで勝手にインド出身と決めつけていたわけです。イギリスにインド系移民が多いといった歴史的な背景なども当時はあまり分かっていませんでした。見た目や属性で判断しがちな例です。当初はうまくいかないと感じましたが「間違えるのもお互いさま」とだんだん前向きに考えるようになりました。私が怒らせたイギリス人も日本のことをどれほど知っていたかは疑問です。対話を積み上げていくことが異文化の理解につながる。間違えるのは恥ずかしい、と考えてはもったいない。間違えたところがスタートになると学びました。

 

木暮 米国の高校のクラスメートたちは授業中に答えを間違えても平然としていました。日本人が間違いを恐れるのはなぜでしょう。

 

竹田 教育の影響もあると思います。私自身は子どものころから堂々と間違えており、学校の先生もあきれていました。

 

木暮 米国生活が大きな影響。 

 

竹田 オクラホマで暮らした4年間は悩みの連続で、海外留学生の中からルームメートを募集したときも考えさせられました。同性であること以外は全くこだわらなかったため広く呼び掛けたところ、ある日イスラム教徒の女性がやってきました。面談していても話しやすく、意気投合したと思ったのですが、彼女は「お酒はご法度。みりんなどの料理酒も部屋に置かないでほしい」という条件を出しました。当時は日本食を自炊してみりんを使っており、彼女の条件は受け入れられず、ルームメイトは別の方を選びました。後日、別の大学の日本人女性でイスラム教徒の女性とルームシェアをした方のエピソードで、日本人女性は同居の際にみりんを捨てたことを知りました。相手に合わせることを選んだのです。そこで気付いたのは、この問題には「正解」がないということでした。生活環境も価値観もその人次第です。どちらかが正しいというものではありません。お互いに主張して落としどころを見つければいい訳です。この作業は職業現場でも活きるのでは、とも思いました。

 

木暮 すり合わせるために話すと優先順位が整理される。

 

竹田 相手との「すり合わせ」は大変な作業です。自分でも成長したと思います。今では意見が違う人を前にしても「どうしてそう思うのだろう」と面白がれるようになりましたから。

 

木暮 どうしても「無理」な人は?

 

竹田 価値観がほとんど合わない人もいますが、「落としどころ」はあるはず。時間がたってから気付く場合もあるので、拒絶することだけは避けるようにしています。

 

木暮 自身の信念を伝えていくにはパワーがいる。

 

竹田 考え方の違う人と一緒に何かをする時に生まれる力に大きな可能性を感じます。米国生活での経験が原動力になっています。非常勤講師として働いたオクラホマの職場はLGBT当事者の人や宗教・文化が異なる教員らの個性がぶつかり合い、メンバー間で対立する場面もありましたが、問題解決に長けた集団でもありました。生まれ育った文化がお互いに近い人同士であれば、一定のレベルまで理解できることが多いのですが、最初から全く分かり合えない人たちも出てきます。それでも双方が歩みよって、当初の半分ぐらいは相手のことを理解できるようになる姿を目の当たりにし、個性豊かな人材を活かせる組織は素晴らしいと実感しました。日本でもそういう組織があれば、力強い集団になれるはずです。いま活かせるのは人です。

 

木暮 植物の種類が少ない森は環境の変化に弱いと聞きます。

 

竹田 不測の事態でも生き残れる種がないといけません。未知のウイルスのようなリスクにも対応できるように。

 

木暮 多様性の意義を「建前」と捉える人もいる。

 

竹田 メンバーが多様であることは組織のレジリエンス(力強さ)を生みます。気乗りしないから取り組まない、というものではなく、企業の価値につながることが明らかになっています。対話や気付きを通じて、企業にとって多様な人材は経営資源などだということをお伝えしたいです。違いについて現代音楽を通じて感覚で腹落ちし、違いを活かす力を養うプログラムも実施しています。 

 

   

   空手の稽古で心身を鍛える竹田さん=本人提供 

 

木暮 納得することが大事。

 

竹田 社会運動のひとつとして「社会における女性の活躍推進」がありますが、これは女性という切り口だけでは解決できません。家庭環境やご本人の事情、会社の制度や企業文化にまで関わるテーマです。企業研修に出て「ああ、いい勉強になった」から次のステップに進んでいただきたい。会社の文化を変えるのが、さらに進んだ段階です。今までは啓発のステージでしたが、多様性を企業文化として根付かせていきたいです。

 

木暮 日本社会の変革まで大局的な見方を獲得するには?

 

竹田 現場の視点が大事です。米国では外国人や人種的少数派としての立場も経験しました。大きな流れを見るには「共感力」が鍵になると思います。私が実施する、違いに共感するトレーニングでは、多様化する職場に新しい視点を生み出します。今後も共感力の重要性を訴えていきたいです。(おわり)

 

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