グローバルのヒント
グローバル・コネクター
第26回「ゴールを共有する」多島洋如さん
今回のゲストは、ITエンジニアとして活動後、現在は大阪でアジアを中心とした海外IT開発事業のコンサルタント企業を経営する多島洋如さんです。YouTubeチャンネルはこちら。
木暮 高校卒業後はカナダに進学されたそうですね。
多島 高校時代にカナダ西部のビクトリアに短期留学する機会がありました。特別な苦手意識はなかったのですが、単語「エレメンタリー」(初歩)の意味も分からないまま意気揚々と学校に到着したら、自分が「ビギナー」の下のクラスに割り当てられていたことを知りました。当時は関西出身者には馴染みのある「ツッコミ(指摘)」が海外でも通用すると思い、ふざけてカナダ人の頭を叩いたところ、相手が泣いてしまったこともあります。
木暮 日本文化というカルチャーショックを海外で知ることなったわけですね。
多島 バンクーバーに語学留学している時に、MBA(経営修士号)の取得のために日本から来ていた商社の方に英語とビジネスのスキルを教えてもらいました。その方とは今でも交流があります。カナダで過ごした4年間は学校からの課題に追われ、ほとんど勉強漬けの日々でした。ビジネススクールへの編入を目指していましたが、学生の中には「過去問」を大量に入手している中国出身者もいて、中国人コミュニティの結束力の固さに驚かされました。
木暮 移民を受け入れてきたカナダには、多様な人種の方がいるイメージがあります。
多島 カナダに渡った1997年はちょうど香港が中国に返還された直後で、香港出身の方が多くいました。中国語の看板も目立ちましたね。
木暮 帰国後に就職。
多島 実家の内装業を手伝いながら、英語と関係ない世界に身を置いて将来を模索していたところ、当時放映されていた米国のテレビ番組に登場するプログラミングの専門家「ハッカー」にくぎ付けになりました。ひょんなことからプログラマーの就職口を見つけ、ITの世界に入りました。動機は不純かもしれません。
木暮 きっかけは人それぞれ。IT業界ではインド企業との仕事も多い。
多島 納期が決まっているのに現場に対応を任せきりでフォローがなく、半年後も全く進展なし、という状況も目の当たりにしました。自分の経験が乏しいうちは、やれることをやるだけ。「諦めたら終わり」という言葉もありますし、「とにかく逃げない」と決めていました。当時は日本在住のインド人スタッフに助けてもらいました。
木暮 インド人に対する見方にも変化が。
多島 最初は「わらにもすがる」思いだったのですが、日本人がデータ処理に四苦八苦する一方でインド人は淡々と修正作業を進める姿を見て「やはり優秀だな」と実感しました。ソフトウェアの土台をゼロから作れる人たちです。能力にあらためて納得したわけです。
木暮 日本人は海外スタッフの仕事ぶりに不満を持ちがちです。フェアな視点ですね。
多島 最初は失敗もしました。「プロジェクトを立て直す」という使命感をもって参画した自負もあり、自分の信念を貫いてインド人スタッフと議論しながら要求を伝えていたつもりでしたが、彼らに対する高圧的な態度が疎まれたようで、自分を担当から外す動きがあることを人づてに聞きました。お客さまからの口添えで事なきを得ましたが、自分の接し方や態度を振り返る良い機会になり、海外プロジェクトの運営に欠かせないエッセンスを手に入れる事ができました。
木暮 誠実にお客さまと付き合われていたから、周りが助け舟を出してくれたのですね。
多島 ありがたい話です。会社の利益も大事ですが、「お客第一」で仕事をしたいという思いが強くなったのも起業した理由です。始めはオフショア開発のコンサルタントをしていましたが、知人の紹介でベンチャー企業の業務立て直しや、事業プロセスを整理するお手伝いもするようになりました。インドを活用したソフトウェア開発については、日本のクライアントさまから大変好評で今後さらに拡大する計画です。
木暮 仕事は楽しいですか?
多島 すごく。インドのIT企業で仕事をして考え方が変わりました。インドの人は真面目なので、彼らが働きやすい環境を提供するようにしていますが、彼らがやりたい放題にならないよう様子を見ながら時々「首を絞めたり(手綱を引いたり)」もします。
木暮 大阪流の豊かな表現ですね。
多島 大阪人が過剰に他人のプライバシーに土足で踏み込んでいく様子には、苦笑するしかないですが、私自身も関東出身の同僚に給与額を聞いて叱られたことがあります。
木暮 海外とやり取りして影響を受けましたか。
多島 オフショア開発などに自分が直接関与することは大切なのですが、一人では限界があります。個人の仕事量でプロジェクトの成否が決まるのではなく、マンパワーを減らしてもしっかり機能する仕組みを考える方が大事です。水を含んだスポンジを自分で絞るのではなく、吊り下げて水が自然と垂れ落ちるようにするイメージです。自律型のオフショア開発構築を得意としています。
木暮 仕組み作りが大切。
多島 外国人と仕事をするときに気を付けるのは、ゴールを共有することです。私は「期待値マネジメント」と呼んでいますが、共通のゴールに向かって進めていく。例えば、「お好み焼き・たこ焼き理論」です。お好み焼きとたこ焼きは材料や形状、食感も似ていますが、「たこ」の有無という決定的な違いがあります。そのエッセンスが共有されないまま話を進めても、最後に期待通りのものが出てこないのは当たり前です。海外の人との仕事では出来上がりの「ゴール」のイメージを共有することが大事ですね。
通天閣の前でお好み焼きとたこ焼きを手にする多島さん=本人提供
木暮 「生きているうちにやりたいことをやる」という信念の下、コーヒー豆の販売も手掛けているそうですね。
多島 飲むのはもともと好きでした。お湯をシャワー状に注げる「メロドリップ」でコーヒーを入れるとおいしい事を発見し、携帯用の専用グッズを見つけたりしてコーヒーを売っています。40歳を過ぎたので人生を折り返しました。今はいろんなことに挑戦したいです。(おわり)
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