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グローバルのヒント

IoTキュレーション

2019年9月18日

グーグルはプライバシーを保護できるか

 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の内定辞退率を本人の十分な同意を得ずに一部の得意先企業に販売していた問題。当初は、インターネットを利用する人のCookie情報などを照合することで閲覧用ソフト(ブラウザー)を特定し、アクセス履歴を分析して内定辞退率の予測データを算出していたとされる。就職活動にとどまらず、ネット利用者のプライバシー保護は対策が急がれている。

 ユーザー情報の保護をめぐっては、人気ブラウザー「Chrome(クローム)」を提供する検索大手のGoogle(グーグル)が先月発表した基本方針について、専門家などから批判が集まっている。グーグルは先月22日「よりプライベートなウェブの構築」と題した声明を発表(原文はこちら)。ネットにおけるプライバシーを重視する立場を強調し「Privacy Sandbox(プライバシーの砂場)」という方針を打ち出した。同社はパソコンの仕様やインストールしたフォントなどからユーザーを識別する技術「フィンガープリント」を疑問視した上で、Cookieを廃止すればコンテンツ販売業者が資金を調達する機会が奪われ、将来の活発なネット環境が脅かされると主張。プライバシーの保護とターゲティング広告を両立させる技術を開発する意向を示した。

グーグルは「広告会社」

 技術系メディアサイト「Gizmodo(ギズモード)」の編集者であるアダム・クラーク・エステス氏はこうしたグーグルの姿勢を記事‘Google Wants It Both Ways’(日本語要約版はこちら)でやり玉に挙げる。Cookieを維持しつつ、広告主も擁護するグーグルを「一挙両得を狙っている」と指摘。さらに、米プリンストン大学の教授らが「スリを取り締まって強盗になるよりまし、というような態度」と批判する声も紹介する。またグーグルが競合ブラウザーである「ファイアーフォックス」のプライバシー保護強化機能を念頭に、声明で「予期しない結果を招く」などと当てこすっていることにも触れ、グーグルは「個人情報を売って広告収入で稼ぐ企業」だと看破している。

 「グーグルは広告企業」との見方を紹介するのは、ジャーナリストのセオドア・シュライファー氏だ。同氏は今回のグーグルの声明についてニュースサイト「Recode」に記事‘Google says it’s making Chrome more private, but advertisers will still track you’を掲載。ウェブ開発者であるマット・マーキス氏の「広告企業として収益を目指し、一線を越えて個人データを乱用している」とのグーグル評を引用し、同社に対する読者の認識に一石を投じる。同時にシュライファー氏は研究者が「プライバシー保護の議論に加わったことに意義がある」と擁護するコメントも紹介し、今後の推移を見守る構えを示す。

 プライバシー保護の監視団体「EFF」のベネット・サイファー氏もグーグルが発表した方針には懐疑的。サイファー氏は寄稿’Don't Play in Google's Privacy Sandbox’でグーグルのプライバシー保護方針の技術的な長短を解説した上で、同社がCookieから手を引く各社の動きを「ユーザーのプライバシーを侵す」と批判していると指摘する。グーグルの方針は自社の収益にすぎないと指弾しながら、「たまたまブラウザーを手掛けている広告会社」と断じている。 

人気の高さか個人情報か

 指摘されるように、グーグルは無料のブラウザーを通じて集めたユーザーのデータを売ることで広告掲載料を稼ぐビジネスモデルを採用しており、ユーザー情報の価値を知っている会社がそれをすぐに手放すとは考えにくい。今回グーグルは、プライバシー保護を重視する姿勢をアピールする一方、従来通りクロームでCookieの搭載を続けたい本音をのぞかせたことで批判を招いた形だ。

 前述のエステス氏が指摘するように、プライバシーの保護が気になる人はクローム以外のブラウザーを使う選択肢も考えるべきだ。IoTを利用したサービスが注目を集め、個人情報に代表されるデータの重要性が高まる中、無料でブラウザーを使用する代わりにプライバシーを第3者に提供することには一層の慎重さが必要だろう。(了)