グローバルのヒント
木暮知之のインサイト
グローバルビジネスを左右する「取材力」とは
ロイターの記者としてニューヨークで活躍されている我謝京子さんにインタビューさせていただいたことがあります。我謝さんの現地からのリポートをニュース番組等でご覧になった方も多いかもしれません。詳しい内容はグローバル・コネクターの記事をお読み頂きたいと思いますが、その中で気になった点をご紹介します。
我謝さんは、インタビューの中で次のようなコメントをされています。
──取材をしていると思い込んでいる私たちが実は相手から「取材」されているのです。聞く側の印象が悪ければ、伝えたいことの10分の1しか話してもらえない。逆もそうです。お話をうかがった人が別の人の取材には全く違う内容の話をするのを見たことがあります。結局、取材は「写し鏡」だと感じています──。
「取材」自体は記者の行為ですが、一般のビジネスにおいても大いに当てはまります。海外の関連会社を統括される立場の方であれば、現地スタッフから詳しい状況をヒアリングし、営業を監督する方であれば、最近の業績について営業マンと意見交換をし、品質を管理する方であれば、製造現場での品質改善活動について議論するように、聞き取りの場面は多岐にわたります。
実際には取材される側から取材を受けているのだとすると、聞き取りは出方次第で相手から良い情報を聞けるか聞けないかが決まるばかりか、相手を味方につけるか敵に回すか、くらいの大事な行為です。
この「取材する力」と社内マーケティングを組み合わせることが、グローバルビジネスにおいても特に大事です。なぜならグローバルなビジネスを推進すること自体が、日本の企業や担当者の方にとっては、すでに「ハンデ」を抱えた状態であるからです。具体的にハンデとは下記の点が考えられます。
1.海外の支社・現地法人の方は、本社の意向などを直接人から聞く機会が少ない。反感を抱いているケースも想定される。
2.日本の本社から「取材」する人の対応の良し悪しが、海外における本社の印象を決めてしまう可能性がある。
3.日本本社の方は、全社的な動きや背景を説明せずに、課題に対する事実確認だけをしてしまう傾向がある。
では、どのような対応をしつつ、取材するべきか。以下のパターンを押さえる必要があります。
1.まずそのコミュニケーションを取ろうとする本社側の方の意識を改革する必要がある。“取材”は写し鏡であり、相手に聞いているようで自分が取材されているという自覚を持つ。
2.相手に話を聞く場合は、その背景やなぜその人に尋ねるかを説明する。プロジェクトであれば現状の説明と今後の活動など、全体像を理解してもらう。
3.相手の信頼を得て、本題のやり取りを行う。
4.こちらの落とし所や結論ありきで議論せず、相手の言い分をオープンな気持ちで聞くことも重要。相手との違いがあって当然なので、相手の立場を理解して発言する。
経営者の皆さまにとっては何気ない行為も、配下の方々が十分にできているか、いま一度確認されると良いでしょう。上手くいっていない部署では特に、どういうやり取りを実際にしているか、検証してみる必要があります。
オンラインでの海外拠点やパートナー企業とのビジネスでは、1回のビデオ会議がグローバルビジネスの成果を左右すると言っても過言ではありません。