グローバルのヒント
グローバル・コネクター
第58回「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは、デザイン会社で廃棄衣料品を原料にしたリサイクルボード「PANECO®」の普及に努める草木佳大さんです。 フジサンケイ・イノベーションズアイでも好評連載中です。
木暮 大学時代に恩師の海外研究に同行したそうですね。
草木 期末テストの期間を利用して、大学の担当教授が参加されているガラス細工イベントを見学しに、米国へ連れていっていただいたことがあります。カリフォルニア州サンフランシスコから始まり、ネバダ州のラスベガスを経由してアリゾナ州にあるツーソンまで車で回りました。1カ月ほど先生に付いていっただけなんですが、それが人生初の海外長期滞在でした。
木暮 よく連れていってもらえましたね。生徒として何か見込みがあったのかも。身内以外の人を海外に連れていくのは、なかなか面倒ですよ。
草木 授業でご一緒する機会が多く、頻繁に話をさせてもらっていただけですが、雑談の中で先生が「今度、そのイベントに連れていったる」と言われたことがありました。後日あらためて「連れていってくださいよ」とお願いしたら、僕だけ同行させてもらえることに。ほかの生徒はうらやましそうにしていました。その翌年から同行希望者が殺到したそうですよ。先生は現地で仕事がありますから、いつも一緒ではありません。展示会に同行できる日もあれば「今日は打ち合せだからちょっとどっかで遊んで待っていて」みたいに滞在中の半分ぐらいは放っておかれました。それでも大丈夫だろうと思われていたんでしょうね。
木暮 海外のビジネスに触れてどんな印象でした?
草木 調子に乗りやすい性格で、当時は大学生ですから、根拠のない自信もありました。でも、現地で合流した日本人アーティストたちと話していると、勝負を挑んでいる人たちとは本気度が違うことが分かり、自分との温度差を感じました。彼らの「あほなことを若造が言うとんなあ」とでも言いたげな様子がすごく悔しかったですね。
木暮 観光だけではなく勉強もできたわけですね。
草木 自分の人生においては本当に良い経験でした。
木暮 異業種からITに飛び込んだ直後に参加した米国研修で気おされたのを思い出しました。会場に集まったメンバーのプロ意識や自己主張のレベルが僕とは全然違う。外国人が仕事で見せる「本気モード」に触れる機会は意外と少ない。米国人は陽気なだけじゃない。よく働くし、真面目でしっかりしている。
草木 時間内に成果を出す意識は、日本人よりも高いですよね。
木暮 そういう体験がきっかけで、仕事に対する考え方が変わることも。
草木 ひとつ印象に残っているのが、ガラス工場の場面です。職人さんたちはR&Bの音楽に乗りながらガラスを吹いて成型している。
木暮 ミュージシャンみたい。
草木 仕事ってこんなに楽しみながらしてもいいことが分かって、カルチャーショックでした。日本では難しいですよね。仕事はちゃんとやりながら、集中すべきところはする。その感覚はまだ残しています。今の職場には社員用にドッグランが設置してありますし「やることをやっていれば抜くところは抜いて楽しんでもいいじゃないか」という考えです。
木暮 大賛成です。
草木 そうですね。ただ、自己管理できるのが大事。緩みっぱなしになるのもがっちりし過ぎるのも良くない。そのバランスを取れないんだったら、がっちりするしかないでしょうね。新人教育は難しいですね。デザイナーという仕事は弁護士に近いとも思っていて。
木暮 弁護士?
草木 アウトプットの仕方が分からないお客さまの「やりたいこと」を形にするのが私達の仕事だと思うんです。例えば「お店がダサいから何とかして」と言われて自分たちなりに問題提起してみる。感性をある程度とがらせつつ自分の物差しと客観的な物差しを持って、ちゃんと自分も納得した解決方法を提案する。とはいえ、アーティストではないので、お客さまが気に入らないデザインをしてもダメです。相手が求めるものと自分のベストを出す。相手ありきでやるというところが難しい。自分の考えをちゃんと主張して、しかもお客さまの意図するところになるべく近づけるために、何を欲しがっているかとか、どういう人なのかを理解する。これは仕事の基本ですよね。デザイナーは「形を考えるのが仕事」と思われがちなんですけど、本質はそういう問題解決力です。
木暮 最初の就職で営業を経験されているのが生きているんですね。相手の求めるものの中で何がベストか、という話ですよね。
草木 PANECO®を含む、われわれの繊維リサイクル事業も企業のサステナビリティ促進やCSR(社会的責任)を支援する上で、自分たちが関わることで何ができて、どういう結果をもたらせるかという視点で考えます。普通の素材メーカーだったら良い材質の製品を紹介するだけで終わりかもしれませんが、デザインの会社として当社はもう少し踏み込んだ提案ができるように心掛けています。例えば「商品を陳列する棚板を自分たちの廃棄衣料で作れば愛着が生まれる」と気付きが生まれるところまでです。購入されたお客さまはSDGsに対する意識が高まるし、われわれも商品が売れて利益になる。会社の事業として持続可能かどうか、が重要だと考えています。
持続可能である意味
木暮 持続可能性は大事ですね。「SDGsだから頑張ろう」で終わらずに得るものも考えながら。
草木 当社は「共感から共業、そして共楽(きょうらく)へ」というテーマを掲げています。まずは事業に共感してもらい、それぞれの専門分野で協力して「一緒に楽しむ」。われわれがPANECO®を活用したものづくりを独占するつもりはありませんし、さまざまな形で活用・応用できる各社が独自の技術で繊維リサイクルに携わり、それが消費者にも気付きをもたらす。こうした事業を共にやっていこうという考えです。当社は10人の会社ですが、少人数でもいろいろな事に挑戦しています。たくさんの企業でやればもっとすごいことができる、という可能性に共感してもらいたいです。
木暮 参加して初めて分かることもあります。
草木 SDGsの取り組みということもあってか、デザインの仕事では会えないような企業の幹部クラスの方ともお会いできます。鋭い指摘をされる方も多く、会うたびに自分が鍛え直されていると痛感します。当社のような規模でH&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)という世界的な企業の本国の方と直接関わることになったのもありがたかったです。ドイツの展示会に出品した初期型の繊維ボードがアジアでの循環型店舗づくりを模索していた関係者の目に留まったのがきっかけだったのですが、必要とされる水準に達するまでに試行錯誤を繰り返し、採用されるまで2年ほどかかりました。
木暮 どんな基準ですか。
草木 PANECO®で使用する衣類はどういう企業から回収してきたのかや、素材に含まれる石油由来物質の割合といった材質に関するデータのほか、児童労働の有無や従業員の労働環境に至るまで透明性の高い情報が求められます。どのように環境に配慮して活動しているのか正しく理解していない企業と関わってしまうと、それまでの信頼が失墜してしまいますから厳しい基準が設けられています。
木暮 彼らとのやり取りはうまくいきましたか。
草木 H&Mグループの方々とはしっかりと「キャッチボール」ができました。彼らのボールに応えて解決案を投げ返す。すると新しいボールが返ってくる、その繰り返しです。要望に応える中で、彼らの熱い思いが分かるようになり、H&Mから出る廃棄衣料を使った繊維ボードを提案したところ、即採用されました。担当者は外国の方だったので、良い事も悪い事もストレートに意見を言い合えました。結果的にはご満足いただけ、関係性も深まったと思います。これに限らず、環境の事業では誰にも忖度しない姿勢で臨んでいます。環境分野の素材については透明性の高いビジネスをしている自信を持っていたいですし、欧州をはじめとする海外基準の感覚があるのが強みです。
PANECO®を使った同社のショールーム
木暮 ビジネスは対等であるべきですよね。今後のPANECO®はどう展開していきますか。
草木 イタリアで開催される家具の国際見本市「ミラノサローネ」(6月7~12日)に出展します。競合が多いフィールドですが、当社は世界中で製造工場を展開でき、個別にサポートできるノウハウもあります。多くの国内企業の共感を得ていることをアピールする機会にもなりますし、出展して満足するのではなく、PANECO®という事業が世界にはばたけるようにチームとして全力を尽くします。(おわり)
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