グローバルのヒント
グローバル・コネクター
第54回「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
今回のゲストは海外のAmazonへの進出サポートなど電子商取引(EC)のコンサルティングを行う企業「コンパスポイント」を経営する実業家の岡田昇さんです。(写真はいずれも本人提供) フジサンケイ・イノベーションズアイでも好評連載中です。
木暮 どういうお子さんだったんですか?
岡田 周りが田んぼとゴルフ場ぐらいしかない山の中で育ち、小学校まで往復10キロメートルを歩いて通学していました。大学進学を機に上京した後は勉強そっちのけで、ひたすらアルバイトです。当時は総合格闘技に憧れ、親に内緒で始めたキックボクシングのプロ免許も取りました。何試合かやりましたが、アメリカに留学した時に中断してやめてしまいましたね。
木暮 留学するきっかけは?
岡田 大学の単位交換制度を利用したんです。修学旅行みたいなノリでオレゴン州に1カ月行ってみたら面白くて。日本に帰ってから今度は1年間休学して再渡米。オレゴン州から東南部のフロリダ州に移りました。
木暮 フロリダには中南米出身者も多いですね。
岡田 英語が通じない人もいるし、夜は銃声も聞こえる。売ってはいけない植物を扱っている方がいたり。危ない環境だったんですけど、すごく楽しくて。日本よりもスケールが大きい。米国は人の出入りが激しいので、周りを気にしてないんですよね。みんな好き勝手にやっているというのが居心地よかったですね。違いを気にしないし「こうあるべき」というのもない。帰国した後は、成績ギリギリで卒業させてもらって就職したメーカーで図面を書く仕事をやったんですが、あまり性に合わなくて早々に辞めてしまいました。
木暮 経営コンサルを経て、石油業界の機械を扱う商社に転職されたわけですね。
岡田 知り合いと勉強会に参加したら経営コンサルタントがキラキラして見えたのがカルチャーショックで。コンサル業界に足を踏み入れてみて、自分も海外ビジネスをしてみたいという思いが芽生えました。機械商社は求人案内で偶然に見つけて入社したのですが、理系出身で機械に関する素地があり、メーカーとも専門的な話ができたことや、海外に単身乗り込んで商談をまとめたりしたので重宝がられたのかもしれません。欧州やアフリカ、中東からアジアまでいろいろな国に行かせてもらえました。
木暮 世界のあちこちに。
岡田 通貨危機の頃のギリシャでは、拠点があったビルに火炎瓶を投げつけられたり、食事に行ったらマフィアに拉致されかけたり。アルジェリアでは自爆テロで被害に遭われた人の話を聞いたりもしました。
木暮 ひとつ間違えば、みたいな状況ですね。
岡田 伝染病で亡くなった同僚や移動中に銃撃されて南米で命を落とした人もいました。米ロサンゼルスのダウンタウンでは近くで銃声を聞いたのですが、身の危険を感じることもなく淡々と仕事をしていました。ある程度のリスクは受け入れてしまうタイプかもしれないですね。ただ、そういう危険なことを凌駕してしまうほど楽しいこともあって。現地の食べ物だったり地元の人たちとウマが合ったりした時とか。
木暮 海外でのコミュニケーションで心掛けていることは?
岡田 一緒に居る時間が長ければ仲良くなると思うんです。相手の話を聞いて興味を持つ。国を問わず、人間の当たり前の部分があるんだと思います。外国人だから、というのはない気がします。興味を持っていたら勝手にお互いの事を話し始める。気付いたら仲良くなっている。英語をミスしないように、なんて思わないことです。
木暮 同感です。
岡田 会話は単語でなんとかなるし、雰囲気だと思います。米国に長く住んでいるはずなのに、英語がそれほど上手に聞こえない人もいますから。日本人は完璧主義というか、ビジネスでも減点法に慣れすぎているので、ミスしないようにすごく気を使っていて一歩も踏み出せない感じがあります。
木暮 国ごとに商売の仕方も違いますか。
岡田 日系企業とのビジネスに慣れているかどうかです。親日家が多いとされる台湾やトルコは日本のやり方を尊重してくれることもある一方、中国や欧米圏は彼らのやり方がある。会社のサラリーマンなのに個人事業主のように振る舞ったりもする。
木暮 会社の考えよりも個人。
岡田 日本は今まで終身雇用だった時期があって、その記憶が根強く残っている人がたくさんいる気がします。失敗さえしなければ最後まで面倒を見てもらえることを前提とした人がいっぱいいると思うんです。減点法で教育されてきているので、失敗をしなかった人が最後は出世する、みたいな仕組みです。外国ではリスクを取って結果を残した人が上に行くケースがあり、大きく違います。
木暮 プラス思考ですね。リスクをとって進まないと得るものもないですから、健全な考え方のはずですよね。
コミュニケーションの重要性は同じ
木暮 商社マン時代は命の危険もあったわけですが、その後EC業界に進まれます。
岡田 東日本大震災のタイミングで人生を見直しまして。プライベートの時間を削り、体調を崩したりしながら海外を飛び回るこの仕事でいいんだろうかと。大学時代の友人がインターネットビジネスで起業していたのに触発されて「脱サラ」です。「日本で失敗したって大丈夫だろう」という感じもありました。Amazonで転売している人たちの存在を知り、国内の量販店で大量購入して同様に売る事業を始めましたが、労働集約型のビジネスですから継続するには難があったので、商社時代に培った貿易畑の知識を生かして海外でやってみようと考えたんです。転売ビジネスも軌道に乗りそうだったのですが、製造業者が本腰をいれて販売したらかなわないとも思っていました。そのうちにメーカーから「Amazonでの売り方を教えてほしい」という問い合わせが来るようになり、海外販売支援に事業の軸足を移したんです。
木暮 華麗なる転身ですね。
岡田 すごくラッキーだったんです。それまでAmazonで転売している人はほぼ個人で事業している人。大手出身のサラリーマンで、実際に物を売ったことがあり、Amazonを語れる人はいなかった。経営コンサルとして働いた経験があり、貿易実務にも詳しいといった要素が全て当てはまる人がいなかったんです。これが全部つながった。本当にラッキーだったのですが、どんな経験も無駄にはならないのだなと。
事業について語る岡田さん
木暮 外国ではずるがしこく立ち回る人も。
岡田 国によって商売上手ぶりも全然違いますね。どこの国でもそうですが、好きな人間に対する「えこひいき」はどうしてもあります。
木暮 コミュニケーションが取れるかどうかが大事ですね。人間が最終的に絡む以上、そういう要素は排除できないですね。
岡田 忘れられない経験があって。とあるメーカーの代理として中東まで入札に行った時のことです。会場に行くと別室で待機するように指示を受けました。応札順が来るまで待っていると、一緒に雑談をしていた会場の関係者が突然「今からトイレに行ってくるが、ここに競合メーカーの入札書類がある。絶対に見るな」と念を押すんです。なるほど、そういうことかと。部屋に戻ってくる時も「入っても大丈夫か」と聞いてから現れる。やっぱり人間だよねと思いました。
木暮 面白いですね。商社の仕事と共通点はあるものですか。
岡田 多分にあります。出品したい日本企業から信頼を獲得するまでしっかりとコミュニケーションを取る必要があることです。海外進出では当社を含めたいくつかの企業がチームを組む形でサポートすることがほとんどです。物流や税務対応から現地インフルエンサーとの調整、許認可など複数の会社が関わる。それをうまくまとめてお客さまに適切な提案をする。パートナー企業とのコミュニケーションも必要になってくる。商社時代の経験がすごく生きていると思います。
木暮 プロジェクトに似ていますね。パートナーになりそうな企業の情報は現地に詳しい人が教えてくれるんですか。
岡田 口添えを通じてなのですが、現地の人と付き合う中で「こいつになら知人をつないでも大丈夫」と思われていないと紹介してもらえないですから。結局のところ、目の前にいる人としっかりと付き合うことが全てです。そこを大事にしていれば勝手に広がると思います。
木暮 地道な積み重ねがとても大事。真の商売人ですね。現地との信頼関係を築くためのアドバイスはありますか。
岡田 ゼロリスク思考にならず、とりあえず動いてみる。特にECでは変化のスピードが速いので、まずやってみないと追いつけなくなってしまう。興味があるんだったら一度は動いてみる。日本とのビジネスに幻滅する人が挙げる理由のほとんどが「日本側は関心があると言っていたのにちっとも動かない」。日本人は信用できないとみる外国人がすごく多い。興味があるならぜひ、やった方が良いと思います。(おわり)
岡田昇さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。
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