グローバルのヒント
グローバル・コネクター
第29回「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
今回のゲストは、米国の大学からニューヨークの日系企業に就職したのがきっかけで1999年に初来日。大手通信企業のシステム担当などを経て現在はIT関連のコンサルティングやソリューションの開発・販売を手掛ける有限会社ネクストステップを経営する岡田陽二さんです。
木暮 米国で大学を卒業後、ニューヨークの日本企業に就職。
岡田 国籍は日本ですが米国育ちです。母の実家がある九州に遊びに行ったりすることはありましたが、滞在は長くて3カ月ほど。本格的に住み始めたのは1999年に来日してからです。ニューヨークの同僚に紹介され日本IBMに採用されてからこれまで日本で暮らしています。東京・六本木にある本社ビル隣のIBMアジアパシフィックでサーバー管理者として働きました。実は専門はマーケティングで入社当時のIT経験は皆無。先輩の指導を受けながら勉強を続けました。当時はアウトソーシング(外部委託)事業に参入したばかり。外資系企業になりつつあった国内の大手自動車メーカーの業務を請け負うことになりました。外国人ユーザーのITサポートを担当した後、2005年に独立しました。現在は総勢10人ほどの会社です。
木暮 独立して変わったことはありますか。
岡田 ストレスがレベルアップしましたね。それぞれ考え方も対応の仕方も違うため、人の管理の難しさを実感しています。当社はメンバーの8割が日本人で、ほかはスリランカとインド出身が1人ずつ。お客さまは日本人の担当者を好まれるのですが、優秀な日本人は見つけづらくなっているように感じます。お客さまの知識レベルもさまざまですので、丁寧に対応できる人がベストです。
木暮 日本人相手の場合は丁寧さが条件?
岡田 日本人は1対1のやりとりや会話が大好きです。問題が発生した時にやや混乱される方もいるため、状況を説明に行ったり進ちょくをフォローしたりすると喜ばれます。
木暮 外国人の場合も。
岡田 欧米の金融企業や自動車メーカーのインフラサポート業務などもあります。
木暮 管理が難しいのは日本人ですか。
岡田 そうですね。フリーランスの方と雇用契約を結ぶことがありますが、「残業しません」「ここまでしかできません」など確固とした線引きをされている方もおり、会社を立ち上げた当初は困惑しました。
木暮 日本人だからという理由ではない。
岡田 作業条件を整理した上でプロジェクトに参加してもらい、様子を見ます。1週間でやめた人もいて対応に苦労しました。
木暮 採用する人への研修も。
岡田 勉強は必要です。スキルアップのためのトレーニング期間も半年ほど設け、作業時間の管理も気を付けています。依頼を選ばずにとにかく請け負ってしまう人は後で問題が発生するので要注意です。残業時間についてもお客さまから聞き込みをして本人以外から情報を取るようにしています。
木暮 採用は難しいですね。
岡田 初期段階から面接に参加して候補者を選ぶようにしています。スキルよりも人間として信頼できるかを重視します。チームの一員として動けるかどうかも大事。スキルが足りなくても経験のあるメンバーで補うことができ、大事なのはやる気です。モチベーションがないと続きません。ITという名前にあこがれて入った人はすぐやめてしまうことが多く、話しぶりから熱意は伝わるように感じます。
木暮 日本に住んでどうでしたか?
岡田 母親の実家がある北九州市に滞在したことはあったものの、実際に1人で住んでみると違いますね。読み書きは苦戦しました。ただ、役所の人は親切にしてくれました。見た目が「外国人」ということもあったのでしょう。分からないことを伝えると、丁寧に教えてくれました。
木暮 幸運だったかもしれませんね。仕事ではどうですか。
岡田 IT系にいると、助けてもらえる事は多いかもしれません。職場に問い合わせに来た人には、この名前だけではなかなか見つけてもらえないこともありますね。アイデンティティの面では日本で働くスリランカと日本の「ハーフ」として両方の良い面を生かしたいと思います。スリランカ人は優しい人が多い一方、その優しさにつけ込む人もいます。
木暮 日本人は?
岡田 丁寧で親切です。ただし、同じグループ・集団に属していないと冷たい。それに個人よりグループが優先される。学校、飲み仲間などいろいろな場面で集団がありますが、中に入りたくても入れないこともあります。日本は素晴らしい国ですが、オープン化されてない分野もあるように感じます。クローズされている(門戸を開放していない)のは、文化や伝統の保持などには一定の効果がありますが、二重国籍が認められていないという問題をとっても、将来的な人口減につながるなど弱みでもあります。日本の大学の国際的な地位低下も目立ちます。
木暮 なぜでしょう。
岡田 システムの問題です。変えないといけません。子どものころからの教育も重要です。日本で進学する娘たちには公立校ではなく、個人の人格を重視する私立校を勧めました。公立は出席番号のイメージがあり、生徒を個性ではなく番号で見るという感じがします。
木暮 閉鎖的でグループを重視する考え方の根底は同じかもしれません。どうすれば日本人の個性は伸ばせますか。
岡田 自信を持たせることでしょう。日本人は英語で話すことを「恥ずかしい」と避けますが、下手でもいいから話すべきです。1週間も続ければコミュニケーションできるようになります。会話が難しいなら書いても構いません。筆談でもいいのです。
木暮 グループ指向の考え方もありそうです。島国特有の意識でしょうか。
岡田 日本にも地域差はあります。まずはオープンになることです。メールのやり取りでも十分に気持ちを伝えることはできます。そこからスタートするのはどうでしょう。
木暮 今後は?
岡田 IT以外にも興味があります。紅茶の販売も小規模でやっています。スリランカは中国の進出が目立ちますが、日本をもっと売り込んだり、逆にスリランカのことを日本に紹介したりする事業もやってみたいですね。(おわり)
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